dissimilis

標本 展足の型
私の展足の型の考え方      藤田 宏 氏
月刊むし 11月増刊号 1999  入門講座 クワガタムシの標本の作り方


入門講座 クワガタムシの標本の作り方

クワガタムシをペットとして飼ったり、卵を産ませてより大きな個体を羽化させることがブームになっています。この飼育の楽しさについては、もう言うまでもありませんが、体が固い外骨格でできている昆虫は、美しい標本として永久に残すこ可能です。
最近はペットとして飼うだけでなく、クワガタムシの標本にも興味をもつ方が急てきました。「標本には興味があるが、どうしたら~いのかわからない...」という初心者の方から、超ベテランの秘テクニックまで、標本の作り方のすべてをここにまとめてみました。


(むし社刊 月刊むし 1999年 11月増刊号  p.37〜41 より一部抜粋引用)



展足の形のきめ方


展足の形のきめ方は、左右が対称になっていれば、あとは人それぞれの好みです。しかし、苦労して採集したり手に入れたクワガタムシを、少しでもかっこよくしたいのは、クワガタ好きの人間の人情です。

色々な図鑑類や雑誌類に載ったクワガタムシの標本の写真をよく見て、比較検討し、自分の好みのスタイルを完成させましょう。

誰でもはじめは他の人の模倣からスタートしますが、参考までに,私が代表的な型と思っている何人かの方の例をあげてみます。
展足によって、どうイメージが変わるかを比較するために、同じ個体を何度も展足し直して、写真に示してみました。展足の型の名称は、各氏の敬称を省略させていただきました。




(引用者注:本文には,a)黒沢良彦型, b)稲原延夫型,c)鈴村勝彦型 の展足写真と解説もありましたが,ここでは藤田宏氏の展足を主に紹介させていただくことが目的でしたので,ややかけ離れた展足のタイプは割愛しました)

d) 永井型「世界のクワガタムシ大図等」や「世界のハナムグリ大図鑑」の著者として有名な永井信二氏の型です。この型の特徴は、前足の位置が完全に触角の外側にあることです。したがって触角の大きい種(または個体)ほど、前足が外に広がり、「パンサーイ!」をしているような型になります。この型の例は、「世界のクワガタムシ大図鑑」のネブトクワガタのプレートで見ることができます

e)吉田型 若手クワガタ屋のホープとして有名な虫研の吉田賢治氏の型です。比較的ポピュラーな型ですが,各付節が少し内側に向いているのが特徴です。この型の例は、虫研関係の出版物に多くみられます。

f) 藤田型 私の型です。吉田型に似ていますが、各付前はピンとのばさず、少し外側へ向けるなどの点が異なります。ツメの開きは30~40度。この型の例は、1985年に講談社から出版された「パーフェクトシリーズ20,日本のクワガタムシ」や「月刊むし」などに私が書いた報文の中で見られます。 

以上、代表的と思われる6例を紹介してみました。
あくまで私の個人的な見解を述べたもので、多少のデフォルメはありますが、人によって色々なやり方があるということをわかっていただければ幸いです。また、同じ人でも、ずっと同じ型で一生を過ごすというわけではありません。人の考え方が年令と共に多少変化していくように,展足の好みも多少変化していきます。
私の30年近いコレクションを見ていても、昔と今とではずいぶん異なっています。ですから,これはお名前をあげた方が、例としてあげた印刷物の頃にしていた展足例にすぎないことをお断りしておきます。




私の展足の型の考え方


展足の形の決め方は,はじめに書いたように,あくまでも個人の好みですから,「これが万人向け」という決定版はあり得ず,まったく反対のやり方をする人もいます. それを踏まえた上で,今度は私の個人的な好みとその理由を書いてみましょう.

まず,全体についてですが,軟らかいうちに頭部,前胸,腹部を手で押さえて,頭部がほんの少し上向になるように固定すると,全体的に精悍な感じになります(あまりそり返れらせすぎても間が抜けた標本になります).頭部が下に向き気味のクワガタムシの標本などは,クワガタムシの良さを台無しにしてしまいます.

クワガタムシの魅力の象徴である大あごですが,これはやはり閉じていては魅力が減ってしますと思います.かといって,あまりにも開きすぎても,わざとらしい感じがします.大あごは,少し開き気味くらいを好む人が多いようで,私もそうしています.

大あごの間にある口ヒゲも,きれいに形を整えます.こういう小さい所をおろそかにすると,全体がダメになります. 触角は一部の例外はありますが,90度の角度で曲げて整え,先端のクシ状の部分もきれいに見えるように伸ばします.

足の処理で一番難しいのは前脚で,これは触角とのからみがあって,上から見てこの2つがダプっていると残念な気がします。かといって,永井型の方式をとると,触角が比較的短い種の場合はハランスがよいのですが,触角が長い種になると,そのぶんどんどん前足が開いていき,少しバランスがくずれてきます.
これは同じ種の中でもよく起こることなのでやっかいです.たとえば,スシクワガタを特大から特小まで作って並べてみると,大きい個体の場合は,前足の外に触角が出るのがよいバランスなのですが、小さい個体の場合は,前足の中に触角があるのがよいバランスになってしまいます。
(引用者注:メスの場合は前脚の中に触角がある型になります)



中脚と後脚の整え方は,とくに大きな問題はありませんが,中脚の符節をけい節の延長のように真っ直ぐ伸ばすか,すこし内側または,私の型のように外側へ向けるかなどの選択肢があります.これは好き好きとしか言いようがありません.

後脚は,全体に伸ばし気味にするやり方と,ややちぢめ気味にするやり方があります.ちぢめ気味にすると,全体にすこし引き締まったイメージになりますが,欠点もあります.

例えば日本産のノコギリクワガタの場合,他のノコギリクワガタではよいのですが,ハチジョウノコギリに限っては,短足がより強調されて格好悪い標本になってしまいます.それがハチジョウノコギリの特徴なのだから当然‥ということになり,虫そのものの特性なので仕方がないとも思います.
しかし,それでも,目の前に並んだ標本を見ていると,なんとかハチジョウノコギリクワガタの特徴をちゃんと比較できる整え方で,なおかつ美しく見える型の決め方はないものか‥とジタバタ悩んでしまいます.

脚をひろげ気味にすると,スペースを余分にとる欠点があります.「世界のクワガタムシ大図鑑」のプレートを一年かかって作っていた時,脚がひろがっているおかげでうまくプレートに入りきらず,すこしずつ微調整をしたこともありました.

ツメをどうするかについては,あるもの(ついているもの)はすべて標本の美しさをひきたてるために演出するのが基本ですから,ツメをとじたままというのは最悪です.
めんどうでも,ピンセットで1つ1つひらいていきます.ツメをひらく角度は人によってそれぞれです.あまり目一杯ひろげすぎるのも,大あごなどをひろげすぎるのと同じように不自然さを感じるので,私は30度くらいにしています.

これで1頭1頭の標本については完成です.


(むし社刊 月刊むし 1999年 11月増刊号  p.37〜41 より一部抜粋引用)












(引用者注:この講座における藤田氏のハチジョウノコギリクワガタの後脚の展足の懸念を理解された方が作成されたのであろうと推測される標本が雑誌に掲載されておりましたので,ここに引用して紹介したいと思います.次の左側の個体です.しかも野外レコード個体です.本文にあるように短足であることが強調されないように,なおかつ特徴を捉え美しく見える後脚の整え方をジタバタと四苦八苦された試行錯誤の結果がこの標本に出ている感じがします.このクワガタへの愛が滲み出ていると言ってもよい標本です.一方比較で右側の個体は引き締まったイメージの展足となっている個体で,雑誌でも並んで掲載されていました.若干の足の短さは感じますがそれはそれとして,この展足の仕上がりも極美の域です)

Prosopocoilus hachijoensis(Nomura,1960)

(画像左の個体は,東京都八丈島 59.2mm むし社刊BEKUWA99号p.14 より抜粋引用)
(画像右の個体は,東京都八丈島 56.0mm むし社刊BEKUWA99号p.14 より抜粋引用)



(引用者注:最後になりますが,このサイトはトカラノコギリをメインに扱っていますので,次の標本はどうしてもここに載せたいとおもいます.藤田氏が採集された,燦然と輝くトカラノコギリクワガタ野外レコード個体として有名すぎるくらい有名ですが,氏の素晴らしい展足の出来上がりとのセットで改めて見つめなおしていただければと思います)



Prosopocoilus dissimilis elegans(Inahara,1958)

(鹿児島県十島村中之島 74.2mm むし社刊BEKUWA35号p.18 より抜粋引用)


(引用者注:すみません さらに最後の最後に 藤田氏によるトカラノコギリの標本は雑誌から以下のものがありました いずれページをあらためて掲載させていただきたいと思いますが とりあえず)



Prosopocoilus dissimilis elegans(Inahara,1958)

(鹿児島県十島村諏訪之瀬島 67.4mm  むし社刊BEKUWA35号p.21 より抜粋引用)


Prosopocoilus dissimilis elegans(Inahara,1958)

(鹿児島県十島村悪石島 69.4mm  むし社刊BEKUWA35号p.22 より抜粋引用)


Prosopocoilus dissimilis elegans(Inahara,1958)

(鹿児島県十島村臥蛇島 57.0mm  むし社刊BEKUWA35号p.16 より抜粋引用)


悪石島内の林道風景


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